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切ない思い出エピソード【つたえたい訪問看護の話】

切ない思い出エピソード【つたえたい訪問看護の話】

訪問看護師として勤めていると、関わる利用者さんには「元気になってほしい」「希望が叶ってほしい」と願う場面がたくさんあります。しかし全力で支援したとしても、その願いが叶うとは限らないのが医療の現場です。「みんなの訪問看護アワード2023」に投稿されたエピソードから、利用者さんとの切ない別れについて書かれた4つのエピソードをご紹介したいと思います。

「20年を経て続いた訪問看護」

友人の最期の願いを叶える力を持っていても、命の灯は有限で待ってくれないということを思い知らされる切ないエピソードです。

クリスマスの日にメッセージカードが届いた。友人からだった。今年も無事に終わりそうですねと返信。次の日、早朝に電話が鳴った。本来、明るい性格の彼女が、珍しく落ち込んだ様子ですぐにわかった。ご主人が末期癌で入院中。余命宣告されてどうしても家に連れて帰りたい、どうすればいいかの相談だった。20年前、彼女の母をお看取りしたのが私だった。それ以来交流が続いていた。まだ駆け出しの訪問看護師だった私。主治医は超多忙な院長。見つけたと思ったら指示をもらう前に消えてしまう、苦労満載で忘れられないお看取りだった。
ご主人のこともよく知っている。準備万全整えた。計画していた館山旅行、最後の思い出に行きたいとの願いを託され叶えるぞ!と毎日訪問した。主治医ともしっかり連携し20年前の苦労はなかった。主治医も旅行は賛成していて誰もが行けることを願ったのだが、叶わなかった。旅立ちにポニーテールを結ぶことができなかった。

2023年2月投稿

ご家族に寄り添う訪問看護師

「自宅で過ごしたい思いと実現困難な現実」

ご本人の意思を常に尊重したくとも叶わない場面も存在します。やむを得ないと理解をしていても歯がゆさや切なさを感じるエピソードです。

慢性呼吸器疾患を持ちながらも在宅酸素を使用し、在宅療養を続けている男性の利用者さんがいた。昨年の夏頃、捨てられた子猫が家に住み着きそのまま家の猫として飼い始めた。デイサービスの利用をしておらず、娘さんが仕事から帰宅するまでの間一人きりで過ごしていたが、その時間が子猫と過ごす時間になった。 訪問では服薬管理と体調管理を行っていた。訪問時はいつも座ってテレビを見ながら子猫のクロと遊んでおり、「動くとしんどい」と訴えながらも娘とクロと穏やかに暮らしていた。年明け初めての訪問時、寝たきりの状態になっていた。年末に発熱し、以後食欲もなくこのような状態になってしまったと娘さん。
主治医の往診があり、自宅で看取るか入院するかという話をされた。「入院はしたくない」小さく首を振る。「そんなこと言っても仕事もあるし…」と娘さん。娘さんと主治医から説得され、寂しそうな目をしながら首を縦に振り、救急搬送され入院となった。救急車を待つ間、クロは伸ばされた手をくんくんと嗅いでいた。

2023年2月投稿

在宅療養をのぞむ利用者さん

「大丈夫です。何かあったら病院行くので。」

できることは限られていても、利用者さんの心の支えとして大事な存在に…。元気になってほしいと願うも叶わない悲しいエピソードです。

若くして癌を患った一人暮らしの男性。末期の診断を受け、抗癌剤治療を受けていました。訪問看護導入当初、私たちは必要とされていませんでした。しかし、本人と母親と一緒の時間を過ごす中で、いつしか訪問終わりにかけてもらう言葉が変わっていました。
「ありがとうございます。次は〇曜日ですよね。またお願いします」。ゆっくり焦らず元気になりたいと話していた矢先、体調が思わしくなく入院となりました。私が次にお会いできたのはお写真の姿でした。
「息子も私もあなたのおかげで楽しいひとときを過ごせました。出会えて幸せでした。息子の分まで頑張って生きようと思います。」
家族にはいろいろな形があると思います。故人との別れを寂しく名残惜しく、そして残された家族に元気でいてほしいと思うのは、訪問看護師としてだけではなく一人の人間として、一時でも家族の一員になれていたからなのかな…と感じます。

2023年2月投稿

「最後のありがとう」

いつか別れが来るとは知っていても向き合うのが怖くて逃げてしまう…。家族だからこそ、その思いも強くあるのかもしれません。最期の別れを考えさせられるエピソードです。

50代卵巣癌の末期の方でした。消化管閉塞があり、高カロリー輸液で退院。中学の先生になりたての息子さんと2人暮らしでした。経口からは飴やガムしか摂取できないのに、毎日息子の食事の準備、洗濯などの家事に追われていました。息子さんは脱ぎっぱなしで何もしておらず、祝日の訪問でも留守。帰りは夜中で、夕食は彼女と外食。母が準備した食事をとっていないことも度々あり、「末期という説明されてるはずなのにあの息子さんは何を考えてるのか!」と思い、本人に息子さんと話しできてるか確認すると、「私がそんなに長くないことを話そうとすると、話したくないと部屋に行っちゃうの」と。私の息子さんへの不信感は大きくなりました。そのうち、ウトウトしていることが多くなり、訪問時はぐったりしていても息子さんへの食事の準備はしていて、「大したもんはしてないから」と話されてました。
ある日緊急携帯に連絡があり、急いで訪問すると、呼吸できておらず、せん妄状態でした。息子さんは緊急搬送を希望していましたが、本人は拒否。息子さんは怒って「なんでだよ」と言うと「あんたのお母さんでいたいからよ」と。翌日永眠しましたが、息子さんから「ちゃんとありがとうが言えました」と。涙混じりの笑顔でした。

2023年2月投稿

現実も受け入れて生きる強さ

訪問看護師は利用者さんの生活に入り込み、人生を共に歩む存在ともいえます。その中では嬉しいことや楽しいこともあれば、辛い悲しいことがあるのが現実です。特に今回のようなエピソードを体験すると、「もっと何かできたのでは?」「最期の希望を実現したかった」と落ち込み悩むこともあるでしょう。そうした辛さや悲しみとも上手に付き合い、前に歩める強さも身につけていきたいですね。

編集: 合同会社ヘルメース 
イラスト: 藤井 昌子 


2026年1月23日(金)17時まで
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